理化学研究所の研究チームによれば,高機能自閉症スペクトラム(ASD)において,なぜ感覚症状と高次認知機能症状が共存するのかに関する神経学的基盤の一端を解明したとのことです。
近年はASDの症状としてより基本的な脳機能に由来すると思われる感覚症状にも注目が集まっており,視覚刺激に対する過敏性,視覚意識の過度の安定性,聴覚や嗅覚刺激に対する過度の反応など,日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼす症状が報告されています。
しかし,なぜ1人のASD当事者の中にこのような比較的シンプルな情報処理を担う神経ネットワークと関係が深い感覚症状と,より複雑で高次の神経情報処理能力と関連が強いはずの認知機能症状(コミュニケーションの困難さや強いこだわり)が同居しているのか,そしてそもそもこれらの感覚症状と高次認知機能症状が関連しているのかについては,ほとんど明らかにされてきませんでした。
今回、国際共同研究チームはまず、新しい心理課題を用いることで、高機能ASD当事者に見られる感覚症状の一つ(視覚の非柔軟性)が、高次認知機能が関わる中核症状の一つ(こだわりの強さ)と関連していることを発見しました。さらに、解剖学的磁気共鳴画像法を用いることで、この感覚症状および高次認知機能症状が右後上頭頂葉領域を神経基盤として共有しており、その脳部位の灰白質がASD当事者で減少しているために両症状が共存できている可能性があることを突き止めました。
今回の発見は,ASDの一見多様で互いに無関係なように思えていた感覚症状と高次認知機能症状との間に,共通の神経基盤がある可能性を初めて示したものだとのことです。
今後は、今回の発見が他のカテゴリーのASD当事者にも当てはまるのか、右後上頭頂葉領域の灰白質減少がどのようなメカニズム・プロセスでこの二つの症状を引き起こしているのかなどを解明することで、本知見をより深める必要があるでしょう。
一方で、本研究の結果は、ASDに対する包括的な治療法の開発のあらたな端緒を提示したものということができ、今後の臨床応用が期待できます。