【研究】ゲノム変異における「バタフライエフェクト」-ゲノムの三次元構造が説明する自閉スペクトラム症メカニズム-

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理化学研究所の研究グループによれば,世界最大規模の自閉スペクトラム症(ASD)家系全ゲノムシーケンスデータを用い,患者本人からは検出されるがその両親からは検出されない新生の変異である「デノボ変異※」を包括的に解析し,その結果,遺伝子の上流でその発現を制御する「プロモーター領域」のデノボ変異がゲノムの三次元構造(TAD)内の相互作用変化による遺伝子発現異常を引き起こし,疾患リスクに寄与することを明らかにしたとのことです。

※子は両親から半分ずつゲノム配列を受け継ぐが,DNA複製時のエラーなどが原因となり,子のゲノムに親が持たない新たな変異が生じる場合がある。これを「デノボ変異」という。通常,有害な変異は世代を経ることで淘汰されるが,デノボ変異は自然選択をほとんど受けないため疾患の発生において重要な変異が多く含まれていると考えられている。”de novo”は「新たに」という意味のラテン語。

ASDは,社会的コミュニケーションの問題,そして限局された行動・興味・活動を主な症状とする神経発達障害の一群です。最近のアメリカでの疫学調査ではおよそ2%の子どもがASDと診断されると報告されているとのことです。ASDは遺伝的要因が強く関与する疾患であり,大多数の患者では多様な遺伝子変異が複雑に組み合わさることで発症に至ると考えられています。

遺伝子変異の中でも患者本人からは検出されるが両親からは検出されない新生の変異(デノボ変異)は,進化の過程において自然選択をほとんど受けないため,発症に大きく関連する変異が含まれると考えられています。これまでの患者のデノボ変異研究では,タンパク質をコードする領域だけでなく,遺伝子の発現を制御する領域(プロモーター領域)におけるデノボ変異がASD患者で多く見られることが示されていました。しかしながら,その変異が発症に関与する具体的なメカニズムは明らかになっていませんでした。

今回の研究では,

(1)デノボ変異によりプロモーターが傷害されるとエンハンサーとの結合が変化する
(2)その結果、同じTAD内の、変異とは離れた位置にあるASD関連遺伝子の発現が変化する
(3)同じTAD内のASD関連遺伝子の発現変化の下流にあるゲノム中のさまざまな場所の多数のASD関連遺伝子の発現も変動する
(4)その結果ASDリスクが上昇する

という、ゲノムの「バタフライエフェクト」とも表現できるような一連の現象が存在することが示されました。

さらにiPS細胞への変異導入実験から,たった1塩基の変異が近傍遺伝子の発現変化のみならず,多数のASD関連遺伝子群の発現変動を誘発し得ることが示され,これらの変異を標的とした効率的な遺伝的治療法の発展につながることが期待されます。

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