【研究】知的発達症関連タンパク質 LGI3 が脳内の神経伝達を制御する仕組みを解明

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名古屋大学などの研究グループによれば,知的発達症(投稿者註:いわゆる「知的障害」のこと)の原因遺伝子産物(タンパク質)のひとつであるLGI3が,脳内で髄鞘形成を担うオリゴデンドロサイトから分泌され,神経軸索上の受容体であるADAM23と結合することで電位依存性カリウムチャネル(Kv1 チャネル)を制御し,正常な神経伝達に寄与していることを発見したとのことです。

我々の脳は極めて複雑な情報処理を行なっており,その過程では神経細胞をはじめとする種々の細胞が関わっています。正常な脳活動にはこれらの細胞において様々なタンパク質が正しく機能することが重要であり,遺伝子変異などによるタンパク質の機能異常は多様な神経疾患を引き起こします。したがって,疾患と関連する遺伝子産物(タンパク質)の脳内における機能を明らかにすることは,病態メカニズムを理解する上で極めて重要です。

LGI3は、LGI1からLGI4まで存在するLGIファミリー遺伝子に属しており,分泌タンパク質として働きます。それぞれの遺伝子変異は多様な神経疾患(てんかんや末梢神経の髄鞘低形成など)を引き起こすことが知られており,研究グループはこれまでにLGIファミリー遺伝子変異による神経疾患発症機序の解明に取り組んできました。最近,ヒトの遺伝学的解析によりLGI3の変異が知的発達症を引き起こすことが報告されましたが,その病態機構は不明なままでした。

そこで本研究では、LGI3タンパク質が脳内のどこに局在するか,どのようなタンパク質と結合して機能しているのかを明らかにするとともに,LGI3の欠損が引き起こす生理学的な異常を調べることにしました。これらを通じてLGI3が正常な脳活動にどのように寄与し,その機能破綻がどのようにして神経疾患を引き起こすのかを明らかにすることを目的としました

まず、タグ(目印)をつけたLGI3を発現するマウスをゲノム編集技術によって作製し、マウスの脳内におけるLGI3の局在を調べました。その結果、LGI3は神経軸索に髄鞘を形成するグリア細胞の一種(オリゴデンドロサイト)から分泌され、白質領域に強く分布していることを明らかにしました。さらに、LGI3の局在を詳細に調べたところ、LGI3は髄鞘化された神経軸索の特殊な部位(傍パラノード)に限局して存在していることが分かりました。

次に、マウス脳から LGI3タンパク質を精製し、ショットガン質量分析法によりLGI3結合タンパク質を網羅的に調べたところ、膜タンパク質であるADAM23や電位依存性カリウムチャネル(Kv1 チャネル)等が結合していることが明らかとなりました。重要なことに、LGI3欠損マウスにおいては、傍パラノードにおけるADAM23やKv1チャネルのクラスター形成が著しく阻害され、髄鞘化された軸索上の活動電位伝播や神経細胞間のシナプス伝達効率の変化[短期的シナプス可塑性]が阻害されていることが分かりました。

これらの結果から、ヒトの脳内でもオリゴデンドロサイトから分泌されたLGI3が、軸索上の傍パラノードにおいてKv1チャネルを制御し、正常な活動電位伝播やシナプス伝達の遂行に寄与していると考えられます。一方、遺伝子変異によりLGI3タンパク質の機能が破綻すると、これらの生理的な神経伝達が破綻し、知的発達症の発症に繋がるのではないかと考えられます。

本研究での発見は,神経伝達の破綻によって引き起される知的発達症を含めた神経疾患発症メカニズムの解明に貢献するとともに,それらの疾患の治療戦略の創出にもつながることが期待されます。

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