神戸大学や理化学研究所などの研究グループによれば,これまで世界的に利用されている特発性自閉症のモデルマウスと,その亜種とを比較解析することで,内在性のレトロウイルスの活性化が自閉症の感受性を上昇させることを明らかにしたとのことです。
また,この亜種のマウスは記憶能力の低下を伴うことなく自閉症の主症状によく似た行動異常を呈したことから,既存のモデルマウスよりも正確なモデルであることを見出だしました。
自閉症(自閉スペクトラム症)は患者数が急増しているにもかかわらず,未解明な部分の多い発達神経症です。自閉症者の増え続けている理由は,診断基準の変化,父親の高齢化などが挙げられています。
自閉症では遺伝学的素因が強く関連するとされており,DNAの構造学的異常が病態に関与するものとされています。自閉症の研究では病態を解明するためにモデル動物,特にマウスがよく用いられています。BTBR/Jという系統はその中でもよく用いられてきている自然発症の自閉症マウスモデルですが,左右の脳を連絡する脳梁が欠損していること,免疫系のシグナルが亢進していることなど,様々な異常が報告されているものの,なぜこの系統が自閉症のような行動異常を示すのか本質的にわかっていません。
- 広く使用されている自閉症モデルマウス、BTBR/J*4とその亜種であるBTBR/RをMRIにて解析すると、BTBR/Jは左右の脳を連絡する脳梁が欠損している一方で、BTBR/Rは無傷のままだった。
- ゲノム/転写解析を行ったところ、内在性レトロウイルス遺伝子がBTBRマウスで増加していた。
- 一細胞RNA解析により、BTBR/Rでは内在性レトロウイルスの活性化の指標となる、ストレス応答の遺伝子を含む様々な遺伝子群が発現変動していた。
- 種々の行動解析の結果、共通の祖先由来にもかかわらず、BTBR/JとBTBR/Rには空間記憶学習能力などに差があることを見出だした。
今回の研究成果は,自閉症モデルマウスとして広く研究者の間で使用されているBTBR/Jに代わり,新たにBTBR/Rの有用性を示し,ERVの活性を制御することで自閉症に対する新規の治療法につながる可能性が期待できます。さらに将来的に自閉症の発症メカニズムに応じた自閉症のサブタイプ分類が必要であり,自閉症治療の新たな道を切り開く重要な第一歩となります。