慶應義塾大学医学部などの研究グループによれば,これまで不明であった脳の中にある「前障」と呼ばれる領域が形成される過程を明らかにしたとのことです。
前障は,脳の深部に存在して「意識を司る」と考えられている脳の重要な一領域で,その機能や特徴の多くは未解明であり,脳の発生過程において前障がどのように作られるのかについてもこれまでわかっていませんでした。
今回の研究では、マウスの前障を構成する神経細胞を可視化し、それらの細胞が誕生後にどのように移動して最終目的地へと配置するのかを調べました。その結果、前障の神経細胞は、最終目的地を一度通過した後、移動方向を反転させ、来た経路を逆向きに移動して最終目的地にたどり着くという特徴的な移動をすることを見出しました。神経細胞がこのように移動方向を完全に反転させる現象はこれまで報告がないため、反転移動(“reversed migration”)と命名しました。
図:前障が形成される過程の、神経細胞の移動の模式図。
本研究では前障の形成過程で神経細胞が正しく配置する様式や仕組みが明らかになりました。脳の形成過程における神経細胞の配置の異常は,多くの疾患と関連することが知られています。
また,前障の機能障害は,自閉スペクトラム症や統合失調症,てんかんなどの精神・神経疾患につながる可能性が近年示唆されています。したがって,今回の研究はそうした精神・神経疾患の病態理解に新たな道を開くことが期待されます。