慶應義塾大学医学部生理学教室らの研究グループによれば,シナプスを新しく作り出す働きを持つタンパク質Cbln1が、神経活動に応じて神経細胞のライソソームから分泌されることを,マウスを用いた実験により明らかにしたとのことです。
ライソソームはタンパク質を分解する酵素をもつ細胞内小器官で,不要となった細胞内タンパク質の分解を担います。今回の研究によってCbln1が神経細胞の軸索にあるライソソームに存在することがわかりました。また,神経活動が亢進すると軸索からライソソームの内容物(タンパク質分解酵素とCbln1)が細胞外に分泌されることも初めて明らかとなりました。
これらの実験結果から、タンパク質分解酵素による細胞外環境の破壊(スクラップ)とCbln1によるシナプス形成(ビルド)が、協調して働くことによって、神経活動に応じたシナプスの再編が起きる可能性が示唆されます。シナプス再編は記憶・学習の実体であり、その障害は多くの精神疾患や神経発達症(※)で報告されています。
※精神疾患や神経発達症:精神疾患及び神経発達症(自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症など)は脳の神経回路の障害である。ヒトゲノム解析から、これらの疾患と関連するさまざまな遺伝子が同定されてきたが、中でもシナプス関連遺伝子が多く含まれており、これらの疾患は「シナプトパチー(シナプス病)」とも言われている。
こうした神経活動に応じたシナプス再編過程を理解することは,シナプスに病変が存在するうつ病・統合失調症などの精神疾患や、自閉スペクトラム症などの神経発達症,さらにはアルツハイマー病をはじめとする認知症などの神経疾患の病態を解明し,新しい治療方法を開発するために極めて重要な課題となっているとのことです。