京都大学などの研究グループによれば,RNA結合タンパク質「Sfpq」が,巨大な遺伝暗号の読み出しを制御するメカニズムを発見したとのことです。
細胞内のDNAに書き込まれた遺伝暗号(塩基配列として暗号化された遺伝情報)の読み出しは,非常に下等な動物から哺乳類などの高等動物まで,「転写」というメカニズムで制御されています。以前にも別の記事で触れましたが,DNAに塩基配列としてたくわえられた遺伝情報は,mRNAに写し取られ(転写),そのmRNAの遺伝情報に基づいてアミノ酸が決定され,タンパク質が合成されます(翻訳)。そして,こうした遺伝情報を読み取り,タンパク質を合成するまでの一連の流れをセントラルドグマと呼びます。
遺伝暗号は下等動物ではわずか数キロベースですが,哺乳類の神経細胞では100キロまたは1,000キロベースを超えるものがあり,こうした非常に長い巨大遺伝子(超長鎖遺伝子)の遺伝暗号の読み出しがどのように行われているのかは謎のままでした。さらに近年,筋委縮性側索硬化症(ALS)や自閉症といった神経難病や精神疾患で、巨大遺伝子の遺伝暗号の読み出しに異常が見つかり、これらの制御メカニズムの解明が待たれていました。
研究の技術革新により、これまで難易度が高かったRNA制御因子群の機能解析を集学的に行うことが可能になりました。本研究は、神経変性疾患・精神疾患の原因遺伝子の機能解析の結果、これまで知られていなかった神経細胞での超長鎖遺伝子固有の発現制御機構の発見と、さらに長い間の謎である基本転写の調節機構、および神経変性疾患や精神疾患の病因・病態の理解を一歩進める研究成果になりました。今後この研究をさらに発展させ、神経の発生の理解と神経疾患の病因の解明や治療法の開発につなげて行きたいと考えています。
今後,自閉症などの病態解明や治療法の確立につながることを期待したいですね。