東京女子医大や東京大学などの研究チームによると,脳の神経回路を安定的に維持するために必要な分子を特定したそうです。
代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)が成熟した神経回路の維持に必須であることを証明しました。マウス視覚系を用いて以下を明らかにしました。
1. 視覚をつかさどる脳の領域(視覚視床)では、mGluR1の発現が神経回路の成熟後に増加すること
2. 成熟後の視覚視床でmGluR1を失活させると、網膜由来のシナプスが子供のように未熟な状態に退行すること
3. 視覚情報の遮断中にmGluR1を活性化させると、網膜由来のシナプスの退行を防げること自閉症などの発達障害病では神経回路が安定的に維持されないことが報告されています。
今回の成果は自閉症の脳機能障害の病態理解や治療法の開発につながることが期待されます。
神経回路は大人になると(成熟すると)変化しないと考えられてきましたが,成熟した神経回路を安定して維持する仕組みがあることがわかってきたそうです。
例えば,視覚をつかさどる神経回路がいったん成熟した後,視覚情報を遮断すると,成熟した回路を維持することができなくなり,完成した神経回路は退縮し,余分な神経回路が作られて正確さが失われ,未熟な神経回路のように変化することが知られています。このような退行現象は,発達障害の一種であるレット症候群に特徴的な病態だそうです。
また,自閉症においては,シナプスが安定的に維持されないことが報告されており,正常な回路の維持はこれらの疾患にも深く関連があることが示唆されていました。
本研究では「代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)」というたんぱく質に注目し,mGluR1を活性化させることで異常な神経回路の形成を防ぎ,正常な神経回路を維持することに成功したとのことです。
また,mGluR1の仲間であるmGluR5は大脳皮質に広く存在しており,自閉症に関与していると言われています。今後はこのような類似した分子が神経回路の維持に果たす普遍的な役割を明らかにし,精神疾患や脳機能障害の病態理解につながることが期待されています。
【つぶやき】論文を当たろうと思ったのですが,記事編集時点では公開されていないようでした。後で気が付いたら追加しておきます。