北海道大学などの研究グループによれば,卵の中の胚にニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の伝達を阻害・攪乱する薬(ネオニコチノイドなど)を投与すると,孵化したヒヨコに自閉スペクトラム症(ASD)に類似した視知覚障害が現れることを発見したとのことです。
ポイント
- 卵にネオニコチノイドを投与すると、ヒヨコに自閉スペクトラム症様の視知覚障害が発生。
- ASDに治療効果が示唆されるブメタニドを孵化直後のヒヨコに投与すると、その障害が消失。
- ヒヨコの行動の解析から、ASDの発症機構を解明する手掛かりが得られるものと期待。
ASD児は生物的運動(BM),つまり生き物らしい運動を捕らえる視知覚が弱いことが知られています。卵の中の胚に薬を投与すると,孵化したヒヨコのBM選好性が有意に障害されました。しかし,ヒヨコにあらかじめブメタニドを投与しておくと,有意な影響は現れませんでした。
ブメタニドはかつて利尿薬として使われていた薬ですが,一部のASD児に限定的な治療効果があることが報告されています。これらの結果から,ヒヨコはASDの疾患モデル動物として有効であると考えられます。
ASDの症状は乳幼児期に発現しますが,早期診断の方法は限られているのが現状です。生後の早い時期に適用できる,信頼性の高い診断方法と治療手段の開発が求められてきました。BM選好性を基準とする診断方法が確立し,ブメタニドなど適切な薬を安全に適用できるようになれば,ASDのリスクをもって生まれた新生児の社会性の発達を,出生後の早い時期に「水路化※」することが可能になるかもしれません。今後ヒヨコをモデル動物として病態解析の理解が深まると期待されます。
※発生生物学で用いられる細胞の発生運命が絞られていく分化過程を指す用語。斜面を流れる水の行く先が,初めにどの溝に入るかによって決まるように,細胞も発生初期の状態がその後の分化を方向付ける。行動科学にも転用され,幼若期の過程がそれに続く認知発達を方向付けることを言うようになった。